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コラム 09月15日更新

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世界の片隅から

第1回 -私のカメレオン- 1

ファーティマと  前回までは、私がソマリアで飼っていたラクダのダアリの話しを書きました。今回からは、私がジュネーブで飼っていたカメレオンのファーティマの話を書きます。ソマリアを離れた私は、スイスのジュネーブにある国連機関で仕事をすることになりました。ジュネーブはすばらしいところです。レマン湖のほとりに開けた街はほぼ三方をフランスに囲まれ、世界最高の噴水といわれているジェッドーが140メートルもの水柱を湖面に噴き上げています。街のすぐ近くまでジュラ山脈が迫り、中心街には高級スイス時計宝飾店や名だたるブランドショップが軒を連ねています。半砂漠のソマリアとは、まさに天と地、雲泥の差です。しかし楽な生活は必ずしも面白い生活ではありません。紛争地の修羅場で生活をしてきた私は、ジュネーブでの生活がすぐに物足りなく感じるようになりました。そこでジュネーブを拠点に各地を旅してまわっていたのですが、あるとき、気の合う友人と誘い合わせて、モロッコに行ってみました。モロッコというと地中海沿岸にあるあの映画で名高い「カサブランカ」が有名ですが、私たちはサハラ砂漠が見たくてマラケシュに飛びました。マラケシュはサハラ砂漠の端に位置する、モロッコの国名の元になった古い町で、旧市街はユネスコの世界文化遺産にも登録されています。

  一通りの名所旧跡を観光したあと、砂漠に行って駱駝に乗ろうと思い立ち、郊外に出かけました。町を出てしばらくすると、道端に物売りが並んでいます。様々なものが売られている中で、目に付いたのが体長60センチくらいの生きたイグアナでした。ものめずらしげに見ていると、ほら、といって売り子の少年が私の肩に載せたのですが、別に逃げるわけでもなく、じっとしているのです。爬虫類を肩に載せたのは生まれて初めてでした。子供のころ、すばやく逃げていくトカゲを追いかけまわしていた私には、肩の上でじっとしているイグアナは何だか意外な感じがして、しばらく遊んでいました。すると、彼らが安くするから買え買えというのです。結構気持ちが動いたのですが、さすがにこんな大きなイグアナを買ってもどうしようもないと断ると、それならばもっと小さなやつならどうだといって取り出してきたのがカメレオンでした。カメレオンを触るのも生まれて初めてだったのですが、私の手のひらに乗ってじっとしている小さな生き物を見ていると、なんともかわいいなと感じたのです。これが、私とカメレオンのファーティマとの馴れ初めです。色は、周囲が砂漠だからか薄茶色で、体長は20センチほどです。カメレオンの目は左右がそれぞれに360度動きます。まさに目を四方八方にキョロキョロさせるのです。そのくせ私の手のひらでじっとしていて、なでまわしてもほとんど動かないのです。これならそう簡単に逃げ出すこともないだろうし、旅の間だけかわいがってモロッコを出る前に、どこかの樹木に逃がしてやればいいかなと思ったのです。値段も確か1000円足らずで、迷うような金額ではありませんでした。

  かくて、なんとなくの成り行きで、いつの間にか私のポケットの中にカメレオンが入っていたのでした。今にして思えば、我ながらいい加減な気持ちでカメレオンを買ったものだと思います。この一匹の小動物が私の生活にどれほどの影響を与えることになるのかは、このときは、想像もできませんでした。



(文:井上 健)
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