歌舞伎座などで演じられる有名な狂言の一つに「附子(ブス)」という曲目があります。主人が召使いの若者、太郎冠者と次郎冠者を避けて、薄暗い部屋の奥で時折、何やら秘め事をしていました。それをこの二人は、物陰から興味を持って見ていました。
ある日、主人は所用で外出することになります。そこで主人は二人に言い付けます。「あそこには猛毒の附子があるによって、決して近付くことはあいならぬぞ」と、きつく言い残して館を後にしました。
二人は主人がいつとなくあの場所に近付いて居るのに、何ら事無きを得ているのは、と疑問を抱きます。
太郎冠者と次郎冠者は、不安と興味のないまぜな気持で、あの場所に、抜き足差し足で忍び寄ります。すると好い匂いが辺りに漂っているではありませんか、そこにある瓶から・・・。こわごわ、瓶の中の附子を舐めてみると、実に甘い。二人は次々に貪り舐め尽くしてしまうのです。猛毒の附子と伝言して外出した主人の品は、なんと当時、貴重だった黒砂糖だったのです。主人の帰館の後の有様は明々白々です。
そこで案じた二人は、主人の大切にしていた品物、宝のようにしていた、壺や掛け軸を、割り破り、これを言い訳にします。「お留守をいいことに、相撲を取っていて、主人の大事なものを壊してしまいました。お詫びに死のうとして、附子をすっかり舐めたのです」と。主人は言葉を失った・・・ということです。二人のとんちに観客が爆笑を誘われたことは言うを待ちません。
このブスは現代では附子(ブシ、漢名)と表現されます。日本名はトリカブト。多年生の草木で、我国には三十種ほどあるとか。トリカブトの名はニワトリのトサカに花が似ているところからといいます。先に記しましたように最も有毒な植物の一つ。この根には、アルカロイドを含み、その主なものはアコニチンです。決して素人は扱うことは禁物です。
しかし、漢方薬としては大変重要な薬剤なのです。体を温め、新陳代謝を促し、身体の関節マヒ・疼痛・腹痛・下痢の治療に秀れています。要は心臓の拍動を促進し、血行を通して、酸素、二酸化酸素(CO2)、すなわちガス変換を盛んにし、栄養の組織への運搬を担います。漢方処方には、附子湯(ぶしとう)、桂枝加附子湯(けいしかぶしとう)、真武湯(しんぶとう)などあります。漢方を扱う医師や薬剤師に必要に応じ、相談して下さい。
|